地域に根ざした伝統や工芸の魅力を伝える“科学”の教室
〜中京区役所×OpEL.の「未来の科学者養成教室」〜

中京区役所

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  • #インタビュー
地域に根ざした伝統や工芸の魅力を伝える“科学”の教室〜中京区役所×OpEL.の「未来の科学者養成教室」〜

Introduction

OpEL.のホームページ開設に合わせて、一緒にプロジェクトを進めているパートナーの皆様と、出会いからの経緯や今後の展望などについて語り合う座談会を企画しました。中京区役所さんと協同で、2021年にスタートした「未来の科学者養成教室」は、毎回、募集人数の数倍応募がある大人気企画です。このプロジェクトに関わってくださった髙橋祐介さん、佐竹慶政さんと、OpEL.の宿野と倉橋がお話をしてきました。

Profile

髙橋祐介
平成9年度採用。令和6年4月中京区役所配属。中京区は、世界遺産二条城や祇園祭など多彩な歴史文化を持ち、京都の行政・経済の中心地として賑わうまちです。区民の皆様がずっと住み続けたいまちづくりを目指します。

佐竹慶政
平成19年採用。令和5年4月中京区役所配属。中京区では、未来の科学者養成教室をはじめ、小学生から大学生向けのイベントや区民の方々が交流できるイベントなど幅広い事業を開催しています。皆様のご参加をお待ちしております。

Talk

京都の伝統工芸の魅力を伝える
オンラインワークショップが始動

——中京区役所さんとOpEL.のご縁はどのように始まりましたか?

宿野秀晴(以下、宿野):2021年の1月に突然、当時の中京区長だった松田さんが、OpEL.の運営する「つくるまなぶ京都町家科学館」にお一人で来られたんです。お話をうかがうと、中京区役所では島津製作所さんの協力で「おどろき盤(※)」のオンラインワークショップを開催されたそうで、こういった企画を続けたいというご相談でした。

京都町家科学館のことは、当時実施していた伝統工芸のワークショップのチラシを見られて知ってくださったそうです。そのときから、伝統工芸の企画を希望されていたのかもしれませんね。新企画はトントン拍子に進みました。その年の7月に開催することが決定し、中京区の子どもを対象にした「未来の科学者養成教室」がスタート。初回はオンラインで、京都町家科学館の紹介をしました。

※おどろき盤:アニメーションのコマに当たる連続する絵が描かれた円盤を回すと、その絵が動いているように見えるという機器。

宿野秀晴 代表取締役

髙橋祐介(以下、高橋):定員が40人のところ、4倍ほどの応募があったんですよね。

髙橋祐介さん

——大盛況の第1回目に続き、第2回以降はどのようなワークショップを開催しましたか?

宿野:せっかくなので2回目は、京都で先端的な取り組みをされている企業を紹介したいと思っていたのですが、我々との日程がうまく合わず、京都の伝統工芸を紹介する方向に切り替えました。

金属工芸の「竹影堂」さんに協力をお願いして、2022年の7月に、オンラインでの工房見学と実験&工作のワークショップを実現しました。竹影堂さんは最初お会いしたときは、渋い反応でしたが、話が進むにつれて「おもろい!」と感じていただけるようになっていって、喜んで企画に協力してくださいましたね。子どもたちも、とっても喜んでくれて、こちらも大成功のイベントになりました

「竹影堂」さんの協力を得てオンラインで配信した、金属工芸を体験するワークショップ。京都で7代、200年も守り継がれてきた伝統工芸、錺(かざり)職人の「えいじいちゃん」から、作品や道具への思いを伺いました。最後は、子どもたちが銅板を叩いて、銅画づくりにも挑戦しました!
「竹影堂」さんの協力を得てオンラインで配信した、金属工芸を体験するワークショップ。京都で7代、200年も守り継がれてきた伝統工芸、錺(かざり)職人の「えいじいちゃん」から、作品や道具への思いを伺いました。最後は、子どもたちが銅板を叩いて、銅画づくりにも挑戦しました!

佐竹慶政(以下、佐竹):その次の3回目は2023年7月の開催で、「京あめ処 豊松堂」さんに協力をお願いしましたね。2回目と同じく、工場見学と工作のワークショップでした。

佐竹慶政さん

宿野:そうでしたね。飴を作る工房なんて、僕らも入るのは初めて。飴がとってもカラフルなので、華やかで、カメラ写りも良かったですね。

明治創業の歴史ある飴屋「京飴処 豊松堂」さんとのオンラインワークショップの配信は店先からスタート(上)。カラフルな飴ができるようすを見せてもらいました(下)。実験パートでは、参加者の自宅に送った飴を溶かしてオリジナルのかたちの飴をつくりました!
明治創業の歴史ある飴屋「京飴処 豊松堂」さんとのオンラインワークショップの配信は店先からスタート(上)。カラフルな飴ができるようすを見せてもらいました(下)。実験パートでは、参加者の自宅に送った飴を溶かしてオリジナルのかたちの飴をつくりました!

明治30年創業の歴史ある飴屋「京あめ処 豊松堂」さんとのオンラインワークショップの配信は店先からスタート(上)。カラフルな飴ができるようすを見せてもらいました(下)。実験パートでは、参加者の自宅に送った飴を溶かしてオリジナルのかたちの飴をつくりました!

「未来の科学者養成教室」で
アントレプレナーシップを育みたい

——中京区役所では、こういった子ども向けの“科学”を中心にした学びの企画を、ずっと続けてこられたんですか?

佐竹:この企画のスタートは2019年のことです。中京区90周年の年だったので、これを機に、未来を担う子どもに対して、学びを深める事業「次代につなぐ子ども・若者の学びプロジェクト」を2020年に始動したんですね。それで、同年、島津製作所さんに協力してもらって、おどろき盤のワークショップを開催。これが2021年以降の「未来の科学者養成教室」に繋がった、という流れです。中京区を含め日本全体で少子化が進んでいますので、我々もお子さんたちに向けた取り組みをしていきたいという思いがあったんです。

——OpEL.と協同することにどのような魅力やメリットを感じましたか?

佐竹:OpEL.さんとの協同は2021年からで、その時期は第3期中京区基本計画の策定時期でした。その中で「社会的企業との連携によるアントレプレナーシップ教育等の推進」をひとつの取組として挙げておりました。そうした中、アントレプレナー教育に取り組まれていたOpEL.さんと出会うことができました。一緒に企画をつくりあげることで、子どもがものづくりに挑戦するという側面と、地域企業への関心につながるのではないかと考えました。

子どもたちが、いろんなことを考えて、つくりながら学ぶことでアントレプレナーシップを育めば、新しいことに挑戦できる、どんな時代でも生き抜くことができる、そんな人になれるはずだ……というOpEL.さんの考え方と我々の方向性がリンクしていたとも言えるかもしれません。当区としては、地域の方々や企業さんと連携することは大切なことであり、中京区に事務所があるOpEL.さんと協同できるのはありがたいですね。

宿野:中京区の町中で公園の真ん前に京都町家科学館をつくったのは、「科学ってもっと身近なものだ」と考えているからです。どうも理系のことって拒否反応を示される方が多いんです。僕はずっと科学館づくりの仕事を続けてきましたが、不特定多数の人が来る科学館は町中にはなかなかつくれないものでした。でもこれからは、地域の中に溶け込んで、地域の人たちに応援してもらえる科学館をつくらなきゃと思っていたし、町家を改装して科学館をつくるなんておもしろいやんって思ってしまったんですよね。

せっかくつくった京都町家科学館なので、中京区役所さんと連携して事業をすることで、中京区のお子さんたちにも知っていただきたいなと思います。そして我々のベースにあるSTEAM教育(科学、技術、工学、アート、数学)のことも伝えていきたいですね。

倉橋克彦(以下、倉橋):僕は「未来の科学者養成教室」が、“科学”という言葉を頭につけているのに、伝統工芸を紹介しているところが面白いなと思ってます。
「将来の科学者」というよりも、「未来型の科学者」や「新しいスタイルの科学者」という印象も個人的に持っています。未来型の科学者になるためには、グローバルな視点だけでなく、地元のことも知っておく必要がある、だから地元企業を紹介する必要があるんだ……と思ったんですね。

宿野:僕もそう思っています。地域に根ざした素晴らしい企業は本当にいっぱいあるんです。だから親子で地域の良さ、地元企業の良さを知ってもらうのに、「未来の科学者養成教室」はとてもいいイベントになっているんじゃないかと思います。
でも、「毎年応募数が多い!」と言いながら、定員を増やせずに実際に参加してもらえる人が少ないのは、ちょっと悩みどころでもありますね。

伝統工芸から新しいものづくりへ
科学と技術が開発者精神を呼び起こす

——「未来の科学者養成教室」を通して、子どもにどういったことを伝えたいと考えていますか?

佐竹:「挑戦する」ということを伝えたいですね。島津製作所さんも、元々は仏具をつくっておられましたが、今や分析・計測機器、産業機器、航空関連機器等に取り組まれています。京都には伝統的なものづくりから、新しいものをつくりだす企業があるということ、そこには科学や技術というものが深く関わっているということを伝えたいんです。

2024年の京こまのワークショップでは、カラフルなこまをつくって終わるのではなく、実際に回してみて、回転するとジャイロ効果でこまが倒れないことや、重心のことなど、科学を一緒に学ぶことができましたよね。

京こま匠「雀休」さんの協力を得て実施したワークショップ。こまにまつわる科学について学びながら、オリジナルの京こまをつくりました。
京こま匠「雀休」さんの協力を得て実施したワークショップ。こまにまつわる科学について学びながら、オリジナルの京こまをつくりました。

宿野:そうなんです。そうやって身近な題材を通して、生活の全てに科学のことが入っていることに気付いて欲しいんです。何も気付かずに生活することもできますが、そこでちょっとでも「科学が入っている」と知ることで、アントレプレナーシップが、開発者精神が生まれてくると思うんです。
ものをつくりながら科学のことをインプットしていくのが僕らのテーマ。手を動かしているとき、意外と耳で聞いているものです。だから、そこに科学的なものをインプットしていくようにしています。

——実際のワークショップを見て、どのように感じましたか?

佐竹:オンラインで開催したときも、うまく双方向で進行してもらえたのが良かったと思っています。慣れていないと、オンラインでのやりとりは、相手の状況があまり見えないので、距離を感じたりするものですよね。でもOpEL.の倉橋さんは、質問する間や問いかけのやり方が本当に上手で、子どもからすごい反応があるんですよ。「どうして飴が溶けるのか」といった解説パートも分かりやすかったです。質問のときは、子どもの「?」をうまく引き出して、それに応えてもらっていました。2024年はリアル開催でしたが、こまを回すときの空気抵抗の話など、みんなとても面白がっていました。

倉橋:実際に扱っている科学の内容はめちゃめちゃ難しいものなんです。だから言葉だけで説明されたら理解しにくい。でも、目の前で起きている、自分の手元で起きている現象を見ていれば、「え?なんで?」って思ったときに質問できるし、「聞きたい」と思っている状態なので、科学的な知識をインプットしやすいんだと思いますね。

宿野:コロナ禍の間に国内国外含め、ものすごい数のオンラインワークショップを開催しましたから、相当練度が上がったでしょうね。個人的にはリアルでの開催が一番いいと思っているけれど、日本全国へ・海外へと発信するなら、やはりオンラインに軍配があがります。

佐竹:オンラインの催しって、なかなか難しいもので、質問が出にくかったりしますが、OpEL.さんは、オンラインでもうまくナビゲートしてくださるんですよね。

それと、職人さんの工房は入れる人数が限られているなど、リアル開催が難しかったりするのですが、オンライン開催という形で上手く開催できた点もありがたかったです。オンラインに慣れていないことにも配慮して、しっかりとリハーサルをされていたのも印象的でした。当日は本当にスムーズに終わりましたね。区長も本当に感心していましたよ。

髙橋:そうですね。今回の「京こま」ワークショップで、初めてリアルで参加して“遊ぶ”という要素がとても面白かったなと感じました。実際に会場に足を運んでもらって、いろんなこまを体験してもらえたので、遊ぶということを大切にされているということがしっかり伝わったと思います。今回はカラフルな布を使ってオリジナルの京こまをつくりましたが、手触りや、布を巻きつけるときの力加減など、実際に触れたことは、記憶として深く残るのでしょうね。

聞いた話では、外科医になるには勉強だけでなく手先も器用でなければいけないそうですし、こういった手を動かしながら科学を学ぶというのは、めちゃめちゃ大事なことだと思いますね。

会場に集められた多彩なこま
会場に集められた多彩なこま

「なんか違う?」
そのワクワク感が人気の秘訣

——「未来の科学者養成教室」は応募数がとても多いそうですが、その理由は何だと思われますか?

佐竹:これまで30人、40人を定員にしているのですが、だいたい倍以上、多いときで200人くらいから応募があり、「未来の科学者養成教室」はとても人気の高いイベントになっています。一つは子どもに刺さる内容だということ、もう一つはチラシの力もあるんじゃないかと思います。ワクワクする感じがしますもんね。

宿野:「なんか違うことが体験できるんじゃないか」というワクワク感、楽しそうな雰囲気が重要なのかもしれません。

佐竹:チラシにはワークショップに関する記載があって、そこには子どもたちの興味を持たせる仕掛けがあると思いました。「なんだろうこれは?」ってなりますもんね。

宿野:そうですね。「だから考えよう」と進んで欲しいですし、ワークショップでできあがったものは、他人に評価を任せるのではなく、自分で評価して欲しい。きれいにつくることが目標ではないんです。そしてニコニコしてつくっている様子を、親御さんに気付いて欲しいな、褒めてあげて欲しいなと思います。

髙橋:うんうん。そうですよね。

佐竹:そうですね。○×ではなく、自分で正解を決めるというところが楽しいのかもしれません。
京こまのワークショップ自体も面白かったんですけど、会場には雀休さんの祇園祭の山鉾のかたちをしたこまとか、京野菜をかたどったこまがあって、子どもたちが必死になってそれで遊んでいたのも印象的でした。

祇園祭の山鉾をモチーフにした京こま
祇園祭の山鉾をモチーフにした京こま

宿野:リアル開催の良さは、楽しさを周りの人たちと共有できるところにもありますね。

——OpEL.に今後期待されていることを教えてください。

髙橋:中京区という伝統もありながらパワーもある区にある京都町家科学館なので、子どもだけでなく親御さんも一緒に遊んで学べる場として、中京区役所としても一緒にいろいろなことをできるよう、応援していきたいですね。
我々のいる企画担当というのは、役所の中でも数少ない“攻め”の部署。楽しみながら、これからもOpEL.さんといろいろな企画を試していけたらなと思っています。

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