STEAM教育を通して本物に触れる体験づくり
〜OpEL.×同志社の好きなことを見つけて学ぶプログラム〜
同志社小中学校
work
- #インタビュー

目次
Introduction
OpEL.のホームページ開設に合わせて、一緒にプロジェクトを進めているパートナーの皆様と、出会いからの経緯や今後の展望などについて語り合う座談会を企画しました。同志社小・中学校さんでは、2022年から理科の体験授業や放課後の「学びプロジェクト」を担当しています。OpEL.が考えるものづくりを通したSTEAM教育を実際の現場に取り入れるきっかけを作ってくださった沼田和也先生と川崎公美子先生を交えて、OpEL.の宿野と倉橋がお話をしてきました。

Profile

沼田和也先生
同志社中学校教頭、大阪工業大学非常勤講師。土木学会に所属し、同志社中学にて技術科教諭として社会と繋がる授業実践のほか、自身が海外に飛び込みで現地校と人脈を構築し、Asia STEAM Campなどの国際交流を実現させてきた。海外の現地校ではブリッジ・コンテストなどの実践多数。科学技術やものづくりで人と社会がつながる実践を目指している。

川崎公美子先生
中高の理科教諭として物理化学分野を14年間担当し、2010年度からは同志社小学校で理科専科教諭となる。野外活動や実験観察を軸として、子ども達が自然科学の面白さを思う存分体験できるような授業を目指している。
Talk
「面白い人と知り合った」が、はじまり。
―― OpEL.と同志社小・中学校が出会ったきっかけを教えてください。
川崎公美子先生(以下、川崎):2022年の7月4日でした。沼田先生から「とても面白い人と知り合った」とメールが届きました。そのメールに宿野さんの連絡先が記載されていて、「私のメールアドレスを教えていいですか?」と書かれていました。もちろんOK。その後、宿野さんから非常に丁寧なメールをいただいたのが最初ですね。
その頃、私はSTEAM教育について興味を持ち始めていましたが、具体的に何をどう進めればいいのか迷っていたんです。入ってくる情報はプログラミングやロボットのことが多くて。でも、宿野さんとなら、いろいろな視点からアートなども取り入れることができるんじゃないかなと思い、7月16日にOpEL.の拠点である「つくるまなぶ京都町家科学館」を訪問し、話を進めることになりました。

沼田和也先生(以下、沼田):学校は性質上、「閉じた」空間になりがちです。OpEL.さんが運営する科学館や博物館と学校が連携することで、学校という閉じた環境を広げ、社会とつながる重要な役割を果たせるんじゃないかと考えました。また、社会とつながるはじめの一歩になるのではとも感じました。

宿野秀晴(以下、宿野):川崎先生といっしょに取り組んで手応えを感じたもののひとつは、学校のすぐそばを流れる岩倉川で自作の水車を回して発電するプログラムです。身近なもの、自然にあるものをSTEAM的な切り口で考えるとどうなるか、良い事例になったのではないでしょうか。面白かったのは、水車をちゃんと作る子もいれば、作れない子もいたりして。それでも、みんなで役割分担を決めて進めていたことでした。あなたはリーダー、記録、撮影とか。それぞれうまく役割をこなしながら、自身の学びにつながったのではないかと思います。


―― 川崎先生はどうしてSTEAM教育に興味を持たれたのですか?
川崎:「これをやりなさい」と言われると、反発心が出てくるとか、いろんな個性を持った子どもがいます。でも、自分が好きなことや興味のあることには、すごく興味を示してくれて、学びが深まることに気づきました。また、30年近く理科の教師をしていますが、たくさんの子どもと接する中で、普段の教育が「分かったふり」を強いていることにも疑問を持ちました。自分から問いを立て、好きなように学べる時間を保障することが必要なんじゃないかと。では、どんな教材で指導するかというときに、宿野さんたちが掲げているSTEAM教育の活動がフィットすると思い、飛び込んでみました。ただ、教師が前に立つといつもの授業になってしまうので、学校外の専門家をゲストとしてお呼びし、教師がサポートする形で学びを始めました。

宿野:川崎先生が担当する小学校の理科の授業では、学期に1〜2回、私たちがゲストティーチャーとして参加しています。中学では、放課後に開催されている学びプロジェクトを担当しています。このプロジェクトは、学校以外の社会の人を講師として呼び込んで行うものです。生徒たちが自分で選択して、自分の好きなものを選んで、そこでさまざまな本物に触れる多様な学び方を提供しています。
私たちも「新教育」と言いながら、どういうことをやって、どういうプログラムを作っていくのか試行錯誤の中でした。そんなときに同志社小・中学校から声をかけていただき、「モノづくりの視点」で今の子どもたちに響くプログラムを一緒にやっていこうということになりました。中学校の学びプロジェクトは、有料にも関わらず、これまでに70~80回開催し、たくさんの生徒が参加してくれています。

沼田:必修の学びの中では、子どもたちにとって興味の有無にかかわらず取り組まなければならない内容があるのも事実です。でも、放課後は、自らが「やりたい」と思わないと行動を起こさないし、さらに有料となると価値を感じないと来てくれないわけです。同志社中学校としては「自分でやりたい、学びたい」という気持ちを育みたいという思いがあります。強制された学びは「やらされている感」が出てしまうため、私たちはできる限り主体的な気持ちを大切にしたいですね。

宿野:放課後の学びプロジェクトに来ている生徒たちは、沼田先生がおっしゃるように「自分がやりたい」と思って参加しています。プログラムでは、私たちも答えを出してないし、彼らも答えを求めていない。主体的な学びっていうのは、「好き」から始めていかないと吸収できないんですよね。今の学校教育はテストの点数や記憶力を重視しがちですが、自分の「好き」を見つけて、それを深める経験が大切だと考えています。それが中学校の3年間でできるというのは、本当に素晴らしいプログラムだと思っています。
倉橋克彦(以下、倉橋):印象としては、普段そんなに真面目じゃないのではというタイプの生徒も来てくれているのかなと思っていますが、先生、いかがですか?

沼田:そうかもしれないですね(笑)。 必ずしもそうではありませんが、成績が良い生徒の中には、外部からの評価を意識する傾向が見られる場合があります。しかし高い成績を取ることと、学びを深めることとは必ずしも一致するわけではありません。私たち教員としては、どちらの学び方にも価値があることを認識しながら、より深い理解や探究心を育むサポートをしたいと考えています。
教育現場でのジレンマゼロから1を考える人になるためには
宿野:今、社会で一番困っている事象というのは、「インプットを言ってもらえたら、頑張ってアウトプットします」という人材が多いことなんです。ではなくて、「インプットを考えてほしい」のです。効率良く、1を10にして100にする人材じゃなくて、ゼロから1を考えられる人材が求められています。
でも、社会に出てから、いきなりそのスキルを求められても対応は難しくて、小学校の高学年や中学校の学びで主体的な学びを取り入れておくと、将来が変わってくるのではないかなと思います。

沼田:評価や報酬のためだけに行う学びや活動は、形だけのものになってしまって何も残らないと思います。何かの目標があって、今の学習とのつながりをつけながら学ぶことが求められていると思います。
宿野:私たちが同志社小・中学校という義務教育の中に入らせてもらい、モノづくりを基点としたSTEAM教育を担当していますが、先生方はどう感じていらっしゃいますか?
川崎:STEAMというアメリカから入ってきた学びに対して、教育界においても理解が進んでいない側面もあります。昨年に中学で行われた「染めと織りを体験するワークショップ」は、京都の伝統工芸と科学を組み合わせていて、最先端の学びだと思います。STEAM教育っていうのは、キャッチコピーのようなものであって、染織ワークショップのように地域特性を生かすなど、オリジナルに発展していくものなんじゃないかと考えています。同志社小学校では、与えられる学びではなく、自ら答えを導き出す学びであったり、答えに至る過程や思考のプロセスを大切にしています。これを「道草教育」と呼んでいて、今、OpEL.さんと協働しているSTEAM教育に通じるものだと思っています。

宿野:私たちはSTEAM教育って「場づくり」だと思っているんです。「こういうことをやりたい」という人が集まって“ワイワイガヤガヤ”学べる環境って大事ですよね。答えを与えられない場所で面白いことや刺激的なことをやっている人が集まってきて、「僕も私もやってみよう」とさらに輪が広がって、場所ができていくことが理想です。
沼田:物事を順番に教えていくことで、子どもたちはできるようになるという考えもありますが、私は目の前の子どもたちが興味関心を持ったところから出発して、まず何を学ぶかに始まり、学びから得た気づきや疑問にぶつかっていく体験を大切にしたいと思っています。学校教育にはカリキュラムに沿って一定の内容を教える必要があり、子どもたちの興味関心だけにフォーカスできないジレンマもあります。だからこそ、学びプロジェクトのように学校と博物館がいい塩梅で手を組んで一緒に授業を作っていくことが、重要なんだと思います。
宿野:同志社さんは、分野横断的な学びを実践されていて、随分と先を走っていらっしゃる印象ですが、それでも川崎先生や沼田先生がお話くださったように足りない部分もあります。そこに私たちの得意とするモノづくりや科学的なアプローチを生かした授業やワークショップを持ってきて、子どもたちの構成的な学びをサポートしています。
―― 授業を重ねる中で、子どもたちの変化はありましたか?
川崎:OpEL.さんの授業を体験する中で、「やってみよう」「ちょっと思いついたものを作ってみよう」という子どもが増えたなと感じています。特別授業に参加した児童は、自分で行動すればいくらでも学ぶチャンスとか広がるという体験を得ました。この経験が中学・高校へと進学しても主体的に動くことにつながっていくのではと期待しています。
沼田:子どもたちの等身大の問いやアイディアって、大人の視点から見ると些細なことに感じられるかもしれません。でも、そういうことも「発言してもいいんだ」とか、発信できる環境の安心感だったり、そういう場の提供が大事だと思っています。そこを学びプロジェクトが担ってくれています。

宿野:最初のころは、子どもたちも「何か結果を出さなきゃ」と固まっていましたね。ところが、今はそんなことを考えていないんじゃないかな(笑) 今、先生方から伺った子どもたちの反応は嬉しいですね。
倉橋:かなり先進的な教育を提供されている同志社であっても、先生方は制約を感じていらっしゃることに驚きました。
川崎:小学校を出て、中学・高校でもちゃんと授業についていけるようにとは、すごく思います。大学をめざすには内申点が必要ですし、最低限理解しておいてほしいことはあります。ただ、教科書に答えが載っていると、子どもたちもそこを目指してしまいます。
だから、授業とは全く関係のない特別授業をOpEL.さんにお願いをして、頭を一旦リセット。教科書で6時間かかる発電の内容を1時間で終えて、最初にお話があった岩倉川での水力発電を体験させました。物理現象は実際には誤差がいっぱいあります。教科書通りではなく、答えが何通りもあることを体感できて、本当に良かったと思っています。

沼田:ペーパーテストでは良い結果をだしていたとしても、理科で習うオームの法則と技術科の電気実習の抵抗器とは別物であると考えていたり、平面図形の描画は大人顔負けの図面をかいてくるが、木工実習の簡単な接手の形状を理解していなかったりとかありますね。本物の体験と机上での学びとのつながりが十分でないと、そんなことが起きてしまうのが今の教育かもしれません。モノづくりを通して手を動かして確かめ、体を使う体験というのは、大事だと実感しています。
宿野:学びプロジェクトに対して、子どもたちからの評価は聞こえてきますか?

沼田:毎回、続けて来てくれているということが、生徒たちの信頼の証だと思いますよ(笑)。
これからの新教育で挑戦したいこと
―― OpEL.と協働して、試してみたいことはありますか?
川崎:学校の教材って、きれいに作られていて子どもたちが手を加える部分ってほとんどないんです。教材をゼロから見直してOpEL.さんと協力して、一緒に教材作りがしたいなぁと思っています。何もなかった時代に戻って、釘一本から教材を作り出すことをしてみたいです。
沼田:世の中が次の社会に発展していくとき、そのきっかけとなるのは科学者だったり、エンジニアだったりします。私たちのような教師ができることは、究極に尖った科学者たちと一般の人たちをどう繋げていくかだと思うんです。私たちが科学者を理解できなかったら、新しい社会への変革は遅れていくだろうし、反対に科学者たちはもっと分かりやすい言葉で説明してほしいと思うのです。その橋渡しを行うのが学校の教師であり、OpEL.さんのような存在なんじゃないかと考えています。学びプロジェクトに来てくれている科学者でありコーディネーターでもある倉橋さんを子どもたちが研究してみるとか、最先端の事柄と一般社会を繋ぐような学びができるといいですね。

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