モノづくりと科学と金融リテラシーを楽しむワークショップとは?
~事業計画書の作成から融資、商品の納品まで~
京都信用金庫 QUESTION
work
- #インタビュー

目次
Introduction
OpEL.のホームページ開設に合わせて、一緒にプロジェクトを進めているパートナーの皆様と、出会いからの経緯や今後の展望などについて語り合う座談会を企画しました。第一弾となる今回のお相手は「京都信用金庫」です。OpEL.は2022年から、京都信用金庫が運営する共創施設「QUESTION」を舞台に、「おかね×科学⁉」をテーマにしたワークショップを一緒に企画実施しています。OpEL.のものづくりの場づくりと、京都信用金庫の金融教育の活動がかけあわさると、どんな空間が生まれたのでしょうか。このプロジェクトに関わってくださった沖島比香利さん、伊東莉加子さん、川上哲典さんと、OpEL.の宿野と倉橋がお話をしてきました。

Profile

沖島比香利(おきしま・ひかり)
2020年京都信用金庫に入庫。営業店にて窓口業務を担当後、2024年4月よりQUESTIONに配属。QUESTIONコミュニティマネージャーとして、イベント企画、運営、相談業務を担当している。

伊東莉加子(いとう・りかこ)
2022年京都信用金庫に入庫。営業店にて1年間窓口業務を担当後、2023年4月よりQUESTIONに配属。QUESTIONコミュニティマネージャーとして、イベント企画・運営・会員コミュニケーション他を担当している。

川上哲典(かわかみ・あきのり)
2008年京都信用金庫に入庫。支店・本部勤務を経て2022年5月よりQUESTIONに配属。副館長としてイベント、事業相談、プロジェクト、会員コミュニケーションを管理している。
Talk
── 京都信用金庫とOpEL.の出合い、これまでの経緯について教えてください。
宿野秀晴(以下、宿野):京信さんとの協働は2021年から始まりました。2022年以降は、河原町御池にある「QUESTION」で「おかね×科学⁉」をテーマに、年中児から小学4年生ぐらいまでの子どもと親にお金や投資などの金融リテラシーを学んでもらうワークショップを実施しています。

沖島比香利(以下、沖島):当金庫では、くらしのサポート部という部署で「4つの貯金箱」という啓蒙活動を行ってきました。これは、「貯める・使う・増やす・譲る」という目的が異なる4つの投入口を持つ豚の貯金箱を使い、お金の流れや投資、融資を学べる取り組みです。今回のワークショップはその貯金箱を作ることから始めました。


宿野:そこに、オリジナルのグラスを作ることで付加価値をつける体験も組み合わせ、お金や科学について学んでもらいました。これは私たちの持つ理系の技術と、京信さんのこれまでの活動を融合させたワークショップです。2023年、2024年も同じような流れで実施しています。

── 「QUESTION」でイベントを実施する意義はありますか。
伊東莉加子(以下、伊東):共創施設と位置付けている「QUESTION」には、様々な世代の方に集まってもらえる地域の居場所になってほしいと思っていますが、子ども向けのワークショップはあまり開催できていませんでした。今回のOpEL.さんとの企画では、さらに手を動かしてモノづくりを楽しみながら、子ども向けに金融教育を行うという、「QUESTION」初の試みになりました。

川上哲典(以下、川上):“QUESTION=未来をつくる施設”ととらえた時、ではその中軸になる人材とは? を考えると、学びが変わっていく、選択肢が広がっていくなかで、今までとは違う学びを提供することを私たちも地域としてやっていかなければいけないという思いがまずありました。その点にコミットする必要を感じつつも、私たちが持たなかった手法をOpEL.さんが示してくださっていると思っています。いろんなリテラシーを見つけた子どもたちが将来地域を担っていく。その方向性が、協働させてもらってる中でクリアになったと感じています。

── ワークショップを通じて育みたいのはどのようなことでしょうか。
宿野:いろんなコトやモノを作る・表現するには理系の技術が必要です。それを私たちはSTEAM教育(科学/Science・技術/Technology・工学/Engineering・アート/Art・数学/Mathematicsを融合的に応用してものづくりを行い、創造性を高める教育法)と呼んでいるのですが、この分野横断的な学びを通じて育てたいのは、ゼロから発想できる人間です。誰かの発想をカタチにしていく人はたくさんいるけれども、何もないところから問いを立てられる、プロトタイプが作れる人はなかなか少ない。そこが大事な教育要素になっていく時代に向けて、金融機関とともに子どもたちを支援する意味があると思っています。

沖島:今は共働きのご家庭も多いので、子どもたちがゲームやインターネットなどのデジタルコンテンツにふれている時間が増えていると思います。でも、小さい時からいろんな経験、一人では見つけられないようなことを楽しむ機会を作って視野を広げる、外に目を向けてほしいという思いも個人的には持っています。
倉橋克彦(以下、倉橋):とはいえ、このワークショップに参加したからと言って、何か一つの答えが得られるわけでない点は今後の課題かもしれません。けれども、工作に使う素材や道具の使い方、モノづくりにはお金がかかるとか、何かに気づいてくれたり、何らかのつながりを感じてもらえたら収穫だと思っています。また、同じ体験をしていてもそれぞれが違う感想を持って帰ってくれるという点を一番面白いと僕たちは思っているので、その幅の広さも伝えたいポイントです。

宿野:成果を得たがることはすでに頭が固まっている証拠かもしれないので、そこをほぐしたい意図もあります。答えが得られないことを面白がる、そんな人が増えてくると良いですよね。いつも思うのは、良い学校に行って良い大学に行って良い会社に行けば幸せな人生が送れるという昭和の価値観が親側にまだ色濃く残っていることです。これは、何かをするための答えや手段のパターンを見つけなさいという、今の大人世代が受けて来た教育方法の功罪だと思います。目的そのものを考えたことは多分一度もないというメソッドが染み付いているからだと思われます。世の中にはサラリーマンだけではなくて、フリーランスの人もいっぱいいるけれども、思考が自分たちの経験の枠を出ないから、子どもたちが何かをやりたいと望んでも親が規制してしまう。でも、我々が外からフォローして、答えはないけれども取り組んでみたい何かを一緒に見つけて寄り添って、いろんなテクノロジーみたいなものを教えていくなかで、子どもたちが見せる表情や行動に多く親が「ウチの子にこんなことできるんだ」と驚かれます。そんな一面や表情が互いに発見できることも成果だと思っています。

── ワークショップでは子どもたち自身が事業計画書を作り、資金を借りて返済もするそうですね。
倉橋:事業計画書はテンプレートを利用して作るのですが、無地のガラスコップに彫刻を施して価値を上げるという事業の目的を明確にした上で、道具がいくらで借りられて、コップはいくらで仕入れられるか、そのためにはどれだけ借りる必要があるかを計算してまとめます。また、借りたお金を1.5倍で返済するには、コップをいくらで売れば良いかも計算してもらいます。その後、制作に移るのですが、完成後は作品にどんな気持ちを込めたか、どんな意図があるか、どんなオリジナリティがあるかをプレゼンテーションしてもらいます。それに対して私たちが評価、買い取りを行います。借りたお金が返せるぐらいの額で売れたら“京都信用金庫”と書いた窓口で返済をします。過去には、作品を完成させることができず、お金も返済できなかった子がひとりいました。本人は辛かったかもしれないけれども、それも良い経験になるのではと思っています。

伊東:ワークショップではいろんなコミュニケーションが必要になります。私たちはコミュニティバンクを名乗らせていただいていることもあり、コミュニケーションに重きを置いているのですが、人口減少も進んでいくこれからの世の中では、自分に無い部分をいかに他の人と協力して補うか、対話しながら協力できる仲間を作ることかが大切になってくると考えています。だからこそ、このワークショップを通してコミュニケーション能力を磨いてほしい。それが「QUESTION」という場を創造した金融機関の意義にも繋がると思っています。
── 子どもたちの反応を見て感じたことはありますか。
沖島:緊張していた子どもたちが段々と目を輝かせる姿が印象に残っています。私自身は細かい作業が苦手なので、そこを避けて通れる簡単なデザインをわざと選ぶタイプなんですけれども、一生懸命細かい作業に挑戦する子どもたちを見てその素直さに感銘を受けました。お母さんが「こんな姿は見たことがない」と言いながら嬉々として手伝われた姿も印象に残っていて、温かい気持ちになりました。
伊東:教えてもらうだけでなく、自分で考えて遊ぶ体験の機会を提供できることが大切だと感じましたし、「QUESTION」はそういう場でありたいとの思いを新たにしました。また、オリジナルのカバンを作って譲る体験を通して、日本にはあまり根付いていない寄付の文化の存在を知り、大人になった時に思い出してもらえたらうれしいですね。

──今後に向けての思いをお聞かせください。
宿野:このワークショップは、未来の事業家づくりにも貢献できると考えています。お金を借りてまで起業するより闇バイトで人から盗れば良いとか安直に考えるのではなく、モノを作りたい、そのためにお金を借りたいと考える健全な経済活動が進むことを期待したいですね。結局、人の為になって、人が喜ぶことの代償としてお金をいただく、誰かの役に立っているかというところが大事。そこを教えていかないと、金儲けだけが人生の目的になってしまう。今日明日に答えは出ないけれども3年5年というスパンで先を見ることが必要だと思っています。

沖島:今後、このワークショップをきっかけに、子どもたちに金融リテラシーが身に付き、地域に関わり続けていく形が出来ていくのが理想だと思っているので、今後もずっとこの取り組みが続けていけると面白いなと思っています。
川上:OpEL.さんが実践しておられる、モノづくりを通した学びは思考の塊だと感じています。今の子どもたちに足りない部分を考えるきっかけになると思っています。さらに、リアルな環境下で“作る”行為をするなかで金融リテラシーを身に着けていく過程もすごく大事だと思っています。個人的には、金融リテラシーだけでなく、メディアリテラシーなども、小さい頃から身につけてもらい、その情報を自分としてどう取り扱うべきか、どう発信するべきかを考えてもらいたい。学校で学ばなかったことこそが、これからの時代は大事だと思っているので、そういった意味では、OpEL.さんと僕らの考えは近しくて相性が良いと思っています。

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